相続放棄Q&A
相続放棄についてこのようなことで困っていませんか?
Q1.相続の承認や放棄とはどういうことですか?
A1.まず、相続の承認には、単純承認と限定承認があります。単純承認とは、亡くなられた方の権利や義務をすべて相続人に承継させます。おもにプラスの財産の方が多いケースで利用します。
一方、限定承認とは亡くなられた方のプラスの財産の範囲で、マイナスの財産(借金など)を支払う義務を負います。おもにプラスの財産とマイナスの財産のどちらが多いのかわからないようなケースで利用します。
最後に、相続放棄とは、相続開始時よりはじめから相続人ではなかったものとして扱う制度になります。おもにマイナスの財産の方が多いケースで利用します。
Q2.承認や放棄をするうえで、特別な能力は必要ですか?
A2.単純承認、限定承認及び相続放棄を行うためには行為能力が必要です。よって、行為能力がない未成年者や成年被後見人などは注意が必要です。
未成年者の場合、親権者もしくは後見人の同意を得て行うか(未成年者に意思能力がある場合)、又は、親権者もしくは後見人が未成年者を代理して行う必要があります。
成年被後見人の場合、後見人が被後見人に代わって単純承認、限定承認又は相続放棄を行うことになります。
Q3.親権者である母が未成年の子を代理して相続放棄することは可能ですか?
A3.利益相反の問題があり注意が必要です。例えば、親権者及び未成年者の双方が相続人の場合、親権者が相続放棄をしないにもかかわらず未成年者の相続放棄をすることは、相続に関し親権者と未成年者との間で利益が相反するため、未成年者のために特別代理人を選任することを家庭裁判所へ請求しなければなりません。
同様に、親権者が複数の未成年者の親権を行う場合にも、未成年者間にて利益相反が生じるのであれば特別代理人を選任してもらう必要があります。
Q4.遺産の一部について承認や放棄をすることはできるのですか?
A4.できません。単純承認が亡くなられた方の権利義務を相続人にすべて承継させることであり、相続放棄が相続開始時より相続人ではなかったものとして相続の権利義務をすべて失うことである以上は、遺産の一部について単純承認や相続放棄をすることはできません。
また、限定承認では、マイナス財産の支払い義務はプラスの財産の範囲に限定されるものの、亡くなられた方の権利義務を相続人にすべて承継することが前提とされているため、遺産の一部について限定承認をすることもできません。
Q5.承認や放棄をする際、条件を付けることはできますか?
A5.できません。単純承認は、亡くなられた方の権利義務をすべて承継させるものである以上、何らかの条件付きで単純承認することはできません。また、相続放棄は、相続開始時より相続人ではなかったものと扱われることになるため、何らかの条件付きで相続放棄をすることもできません。
Q6.借金の方が多そうなので、生前に相続放棄をしたいのですが可能ですか?
A6.生前にはできません。相続は人の死亡によって開始しますので、人が死亡しておらず相続が開始していない状態で、あらかじめ相続放棄をすることはできません。
Q7.承認や放棄をする上で、期限はあるのですか?
A7.あります。相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、単純承認、限定承認または相続放棄をする必要があります。なお、この期間は家庭裁判所における審判により伸長することが可能です。
Q8.相続人が数人いる場合の3か月期限の起算点は個別に発生するのですか?
A8.3か月期限の起算点が「自己のために相続の開始があったことを知った時」と規定されていることから相続人ごとに起算点が異なり得るため、この起算点が異なる場合には、3か月期限が相続人ごとに別々に進行します。
Q9.相続人が承認や放棄をしないまま死亡した場合の3か月期限の起算点はいつですか?
A9.相続人が単純承認、限定承認または相続放棄をしないまま死亡した場合、死亡した相続人の相続人において「自己のために相続の開始があったことを知った時」が3か月期限の起算点となります。
Q10.承認や放棄を一度してしまうと撤回することはできないのですか?
A10.はい。相続人は一度、承認や放棄をしてしまうと撤回することができません。これは、自由に承認や放棄の撤回を認めてしまうと、法律関係が安定しないからです。
ただし、だまされたり、脅されたりして承認や放棄をした場合は、取消すことは可能です。
Q11.相続放棄の効力についてもう少し詳しく教えて下さい
A11.相続放棄が受理されると、放棄をした者は、その相続に関しては初めから相続人とならなかったとみなされ、プラスの財産もマイナスの財産も初めから承継しなかったことになります。よって、放棄をした者を除く他の相続人が遺産を相続することになります。
Q12.事実上の相続放棄とは何ですか?
A12.相続放棄は、家庭裁判所に申述する方式により行いますが、これによらない「事実上の相続放棄」もあります。具体的には、(1)遺産分割協議で遺産を取得しない旨の合意をする、(2)生前贈与を受けたことにして「相続分なきことの証明書」を作成する、(3)相続分を特定の相続人に譲渡する、(4)相続分を放棄する、などの方法をとります。
これらの方法をとる場合、「事実上の相続放棄」をした相続人は、プラスの財産を取得しなくても、マイナスの財産は承継しますので注意が必要です。例えば、(1)の遺産分割協議で一部の相続人のみが全債務を承継することを合意しても、また、(3)の相続分譲渡で相続債務を譲受人に移転させても、相続債権者との間で債務を免れるためには債権者の同意が必要とされます。
債務も含めた全財産を特定の相続人に相続させるためには、他の相続人は家庭裁判所に対する相続放棄申述手続を選択すべきです。
Q13.3か月経過後にマイナスの財産の方が多いことがわかりました。もう相続放棄はできませんか?
A13.相続放棄ができる可能性は残されております。原則として、相続放棄の申述は「自己のために相続の開始があったことを知った時」から3か月以内にする必要があります。よって、3か月経過後に多額の借金があることが判明した場合、相続人に酷となるケースがあり、3か月期限の起算点を遅らせることができるか繰り返し問題となりました。
最高裁判決では、3か月以内に相続放棄をしなかったのが、亡くなられた方に相続財産が全く存在しないと信じたためであり、かつ、このように信ずるについて相当な理由があると認められるときには、3か月期限は相続人が相続財産の全部又は一部の存在を認識した時又は通常これを認識しうべき時から起算するのが相当である旨判示し、3か月期限の起算点を遅らせることによって、「自己のために相続の開始があったことを知った時」から3か月を経過した場合にも相続放棄をなし得る余地を認めています。